ロジカルシンキングの練習② ~数学の問題~

 前回(ロジカルシンキングの練習① ~数学の問題~ - デジタル社会を泳ぐイルカ)に続いて、ロジカルシンキングの練習として、数学の問題を1問ご紹介出来ればと思います。問題が解ける解けないというよりは回答までのプロセスがどのようになっているかを意識して問題を解いてみてください。また、ロジカルシンキングに関しては、以下の記事を参考にしてみてください。
www.digitaldolphin.jp

目次

今回取り上げる問題

 今回は、サイト(神戸大数学 過去問ライブラリー | 電数図書館)より、問題をピックアップいたします。少しベクトルの知識が必要な部分もありますので、ベクトルがそもそもわからない人は流し読みで良いです…笑

\overrightarrow{0}でない2つのベクトル\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}が垂直であるとする。\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b}\overrightarrow{a}+3\overrightarrow{b}\theta(0\leqq\theta\leqq\pi)とする。以下の問いに答えよ。
(1) |\overrightarrow{a}|=x, |\overrightarrow{b}|=yとするとき、\sin^2\thetax, yを用いて表せ。
(2) \thetaの最大値を求めよ。
[’21 神戸大]

ポイント

この問題は分かりやすいですが、大前提として、小問(2)を求めるために小問(1)がプロセスとして存在していることを理解してください。その上で以下のポイントを意識した上で、各小問にサブイシューを設定していきましょう。

  • ベクトルの問題は特に図で書いてイメージすること(特に向きや大きさが正しいかは気にしなくて良い)
今回の問題のイメージ図
  • 問題文からわかる前提条件を整理すること(今回だと、当所するベクトルと各変数の定義)

\overrightarrow{0}でない2つのベクトル\overrightarrow{a}, \overrightarrow{b}が垂直である」ということは、「\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}=0が成り立つ」ということと同値である。

問題(1)

  1. 与えられているベクトルと角度\thetaの関係を出す方法はあるか?
  2. 1の方法を利用した場合に、どのように表せるか?
  3. 2から今回求められている\sin^2\thetaはどのようにx, yで表せるのか?

問題(2)

  1. 問題(1)を元に、今回求められていることは、何を求めることと同値か?
  2. 1の上で、問題(1)の数式を変形するとどのように変形することが望ましいか?
  3. 2の上で、数式の特徴は何かないか?それを利用した解は?

回答

問題(1)

1. 与えられているベクトルと角度\thetaの関係を出す方法は存在するか?それは何か?

存在する。ベクトルと角度\thetaの関係を出す方法は内積。(受験生の方は、この問いに対して他の方法がないかも考えてみてください。)

2. 1の方法を利用した場合に、どのように表せるか?

内積の表記の方法は2つの方法があるため、それぞれの方法で記載します。

  • ①の方法

\displaystyle(\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b})\cdot(\overrightarrow{a}+3\overrightarrow{b})=|\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b}||\overrightarrow{a}+3\overrightarrow{b}|\cos\theta
\displaystyle(\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b})\cdot(\overrightarrow{a}+3\overrightarrow{b})=\sqrt{|\overrightarrow{a}|^2+2\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}+|\overrightarrow{b}|^2}\sqrt{|\overrightarrow{a}|^2+6\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}+9|\overrightarrow{b}|^2}|\cos\theta
\displaystyle(\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b})\cdot(\overrightarrow{a}+3\overrightarrow{b})=\sqrt{x^2+y^2}\sqrt{x^2+9y^2}\cos\theta  \displaystyle\left(\because\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}=0\right)

  • ②の方法

\displaystyle(\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b})\cdot(\overrightarrow{a}+3\overrightarrow{b})=|\overrightarrow{a}|^2+4\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}+3|\overrightarrow{b}|^2
(\overrightarrow{a}+\overrightarrow{b})\cdot(\overrightarrow{a}+3\overrightarrow{b})=x^2+3y^2  \displaystyle\left(\because\overrightarrow{a}\cdot\overrightarrow{b}=0\right)

3. 2から今回求められている\sin^2\thetaはどのようにx, yで表せるのか?

2の内容を元に、①の方法と②の方法のそれぞれで出した表記を「=」で結ぶと以下のように式展開が出来る。
\displaystyle\sqrt{x^2+y^2}\sqrt{x^2+9y^2}\cos\theta=x^2+3y^2
\displaystyle\cos\theta=\frac{x^2+3y^2}{\sqrt{x^2+y^2}\sqrt{x^2+9y^2}}  \displaystyle\left(\because x\gt0, y\gt0\right)
ここで、右辺は必ず正になるため、\cos\theta\gt0より、\theta0\lt\theta\lt\pi/2を満たす。(図でイメージはつくが明確に数式上でもわかることを明記しておく。)また、\sin^2\theta=1-\cos^2\thetaで表すことが出来るため、以下のように\sin^2\thetaを表すことが出来る。
\displaystyle\sin^2\theta=1-\left(\frac{x^2+3y^2}{\sqrt{x^2+y^2}\sqrt{x^2+9y^2}}\right)^2
\displaystyle\sin^2\theta=\frac{(x^2+y^2)(x^2+9y^2)-(x^2+3y^2)^2}{(x^2+y^2)(x^2+9y^2)}
\displaystyle\sin^2\theta=\frac{4x^2y^2}{x^4+10x^2y^2+9y^4}

問題(2)

1. 問題(1)を元に、今回求められていることは、何を求めることと同値か?

0\lt\theta\lt\pi/2の範囲で、\thetaの最大値を出すということは、問題(1)で算出した\sin^2\thetaの最大値を出すことと同値である。

2. 1の上で、問題(1)の数式を変形するとどのように変形することが望ましいか?

最大・最小を出す上で、微分という方法もあるが、今回ような分数形式の場合には「変数を分母だけにして分母の最小値を算出する」か、「変数を分子だけにして分子の最大値を算出する」かが良いことが多い。今回はやりやすそうな前者を元に算出していく。
\displaystyle\sin^2\theta=\frac{4x^2y^2}{x^4+10x^2y^2+9y^4}
\displaystyle\sin^2\theta=\frac{4x^2y^2}{(x^2+3y^2)^2+4x^2y^2}
\displaystyle\sin^2\theta=\frac{1}{\left(\frac{x}{2y}+\frac{3y}{2x}\right)^2+1}

3. 2の上で、数式の特徴は何かないか?それを利用した解は?

2で算出したものを元に、今回は分母の最小値を出しにいく。改めて、以下に分母の数式を記載。
\displaystyle分母=\left(\frac{x}{2y}+\frac{3y}{2x}\right)^2+1
この数式を見ると、よく高校1年の時に登場する相加平均と相乗平均の関係性から以下のように最小値を算出することが出来る。
\displaystyle分母=\left(\frac{x}{2y}+\frac{3y}{2x}\right)^2+1
\displaystyle分母\geqq\left(2\sqrt{\frac{x}{2y}\times\frac{3y}{2x}}\right)^2+1
\displaystyle分母\geqq4\times\frac{3}{4}+1
分母\geqq4
そのため、以下の数式が成り立つ。
\displaystyle\sin^2\theta\leqq\frac{1}{4}
\displaystyle\sin\theta\leqq\frac{1}{2}  \displaystyle\left(0\lt\sin\theta\right)
それゆえに、今回の\thetaの最大値は\displaystyle\theta=\frac{\pi}{6}となる。

さいごに

 今回は少し数式が多くなりましたが、与えられている問いに対してサブイシューを設定して、そのサブイシューを回答すれば、メインイシュー(今回だとそれぞれの小問を指す。もっと言うと、小問(2)が今回の問題のメインイシューのため、小問(1)自体もサブイシューとなっている)の解決につながることが分かったと思います。ただ、これは数学の問題を回答することに特化した話ではなく、実際のビジネスでもほぼ同様のプロセスが行われているものであるため、自分自身の業務でも同様のことを意識してみるとともに数学の問題などを通して、この問題解決にあたるまでのプロセスのスキルアップを試みてください。