カスタマーサクセスの実務(基礎)

 自分自身が今までカスタマーサクセスとしてやってきたことをまとめるための備忘録として記事を今回は書いてきます。かなり長く、ばらばらとしてしまいますが、現在カスタマーサクセスの方や今後カスタマーサクセスとして働く方にとっても少しでも参考になればと思います。
 ちなみに、今までSaaSのカスタマーサクセスとして働いていましたが、ちょうど自分自身が退職することになったため、今までやってきたことを一通りまとめていきたいという部分が一番のきっかけです。記載するにあたって、色んな本も参考にしながら、個人的な意見も入れつつ記載していきます。[*1*2*3*4]

今回伝えたいこと

 まず、この記事では、読んでもらった後に以下の3つの問いへの回答が伝わっていれば嬉しいなと思ってます。細かい部分も多く、かなり長い記事になりますが、サマリ的なものは都度都度記載していきますので、お付き合いください。

▼今回伝えたい問いへの回答

  • そもそもカスタマーサクセスって何?歴史とビジネスモデルは?

そもそもカスタマーサクセスとは?

 カスタマーサクセスと聞いて、どんな仕事をしているのか、あんまりイメージ付かない人も多いかと思いますので、まずはどんな仕事なのかを、この職種が登場した背景も絡めて、紹介していきます。という自分自身も5年前に今の会社に入社してから知った職種で、当時は今よりもよくわからない職種でした。笑

そもそもどんな仕事?

 カスタマーサクセスに関しては、本やメディア等でよく言われるように、「導入企業や利用ユーザーのLTVを最大化するために、導入企業や利用ユーザーを成功へ導くための伴走者」という定義をまず覚えておいてください。この章では、定義の内容が分かることを目的に記載していきます。
 ちなみに、カスタマーサクセスという職種も認知度が上がってきている部分もあり、もうカスタマーサポートとの比較を今更するのもおこがましいですが、カスタマーサポートの場合は、利用者起点で発生した問題への解消方法を示すことがミッションとなっており、あくまでも問題は利用者が見つけ、そこで必要な問い合わせに回答するという受動的な役割となっております。一方で、カスタマーサクセスの場合には、利用者を成功に導く必要があるため、他社事例の紹介や提案を通してお客様をあるべき(=成功)に近づくように伴走者として能動的にサポートする役割となっております。
 これだけ見ると、「今までもカスタマーサポートという職種があったならば、カスタマーサポートが能動的にサポートことが今までも出来たのでは?」と思いますが、カスタマーサクセスがこれだけ重要・有名になってきた背景には、「人の価値観の変化」や、それと並行して、「クラウドの登場」、「SaaSの登場」といった部分も大いに影響しておりますので、この後紹介していきます。

カスタマーサクセスが流行ってきた背景

 カスタマーサクセスが直近ここまで注目を浴びている背景として、「人の価値観の変化」は外せないかと思います。それ以外の理由もありますが、個人の見解として今のカスタマーサクセスが重要になるためには非常に重要です。

人の価値観の変化 ~所有から利用へ~

 では、最初に重要な「人の価値観の変化」を紹介していきます。
 その上で、友人にオススメされて読んだ「成長創出革命―利益を産み出すメカニズムを変える」*5という本にて、紹介されていた1次市場(Primary Market)と2次市場(Secondary Market)という概念を少しだけ用いて説明します。
 まず自分が生まれるよりもかなり前ですが、高度経済成長期の時代は、まだまだ経済発展も技術革新も現在と比べればまだまだ発展途中だったこともあり、多くの企業が未だ市場にないモノを作って売ることにより利益を得ていたという1次市場がメインの時代でした。例えば、自動車市場やオフィスビル市場、人材市場は非常に分かりやすいと思います。当時、トヨタ、日産、ホンダ等の基本の大きな自動車メーカーは国民の大半に車が行き渡るほど多くの車を次々と開発・生産・販売をしていました。また、オフィスビルであれば、多くの社員を抱えていく中で、多くの大企業が自社ビルを建てていきました。人材市場も同じく、高度経済成長期の影響もあり、多くの日本企業では終身雇用を謳えるようになり、人材市場のほとんどは新卒採用市場に偏っていました。
 自動車市場、オフィスビル市場、人材市場という一端を例で取り上げましたが、換言すると、高度経済成長期の時代は1次市場という「ないモノを作って売り切る時代」でした。
 ただ一方で、高度経済成長も終わり、技術革新も更に進み、ミレニアム世代といった世代が徐々にマーケットに増えてくると状況は少しずつ変わっていきます。
 技術革新という意味では、自動車産業が分かりやすいかもしれませんが、トヨタ、日産、Volkswagen、BMW、これ以外の自動車メーカーも含めて多くの自動車メーカーがマーケットに参入しておりましたが、まさにマーケットに参入してきた時こそ、長い距離を走れる、音が小さい、排気ガスが少ない等といった機能的な差が競合に勝つ上で非常に重要でした。それが技術革新により、他社のマネをする上で必要な情報の取得も異常なスピードで早くなり、多くの自動車メーカーでの機能的な差分もどんどんなくなっていきます。そうすると消費者としては、機能的な良さよりもよりユーザー体験の良さ(いわゆるUX:User Experience)を求め、使いやすさやカッコよさ、アフターサービスの良さという非機能的なものを求めていきます。更にはよりUXの良い車を「所有」するという考え方から、使うタイミングだけよりUXが良いものを「利用」する方が効率が良いという考え方に変化しきました。*6特に都心に住む人々に当てはまりますが、自動車を保有していても使わないタイミングが非常に多いとなれば、自動車の「保有」はやめてしまい、カーシェアリングやレンタカーといったサービスを「利用」すれば問題ないという状態になっていきます。
 オフィスビル市場や人材市場でも同じような事態が起こっていると感じます。特に人材市場は2010年あたりから加速的にこの考え方が広まっていると思います。リクルートが発表しているレポート(転職市場動向レポート「2023年 転職市場の展望」発表 中途採用・転職活動の最新状況を解説 全15業界 | 株式会社リクルート)によれば、2021年は転職者の数も2009~2013年と比べて200%~300%程度と、増えている業界も多くなっています。なぜこれが先ほどの「所有」から「利用」に同じなのかと言えば、多くのビジネスマンの考えとして一度入社を決めたら一生同じ会社で終わりという『売り切り・買い切りの価値観』でなく、効率性を求め、自分のやりがいや得たいスキル・経験を求めて必要な環境に都度都度移っていくという『利用の価値観』に変わってきたからです。その結果、企業側も福利厚生や会社のブランドイメージを強くアピールするようになり、ハラスメントなども無いように徹底することに躍起になっていくという、まさに『買い切り・売り切り』という時代から『継続利用』という時代への変化の結果、人材市場が拡大していると感じます。
 自動車市場と人材市場を例にお話ししてきましたが、人々の価値観の変化として、『売り切り・買い切りという価値観』から、効率性を求めて必要なときに『利用という価値観』へ移っていきました。そうすると、先ほど記載したように、高度経済成長時代は「ないモノを作って売り切る時代」でしたが、現代は既に存在するものを如何に使ってもらうかという「あるモノを利用して使わせ続ける時代」に変化し、企業側は如何に顧客体験を最大化出来るのかを考え始めなければならなくなりました。

1次市場(Primary Market)と2次市場(Secondary Market)

 また、この価値観の変化は、VUCA(Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語)と言われる先の読めない時代ゆえというところもあり、あらゆる技術革新のスピードが昔に比べて早くなってきた現代では多くの人が新しいことに踏み出したり、モノを購入する際にリスクを考えてしまいます。だからこそ、売り切り・買い切りのような『「所有」のモデル』よりも必要な時だけ利用する『「利用」のモデル』の方がリスクを最小化する上でも安全だという感覚もあると思います。
 そして、それに合わせて最近流行ってきたビジネスがサブスクリプションビジネス(定期購読や継続購入のビジネス)です。「そもそもサブスクリプションビジネスって何?」という方もあまりいないかと思いますが、新聞社のビジネスがかなり近しく、月額で3,000円払う代わりに毎日朝刊と夕刊がポストに届けられるというようなビジネスで、契約した瞬間に終わりという売り切り・買い切りのモデルでなく、定期利用や継続購入のモデルのビジネスです。身の回りにないか考えてみてもかなり分かりやすいですが、後述するクラウドの発展により出てきたApple Music*7やSpotify*8という言った音楽ストリーミング、Amazon Prime*9やNetflix*10、Youtube Premium*11という動画ストリーミング、日経電子版*12やNews Picks*13というメディア、WeWork*14のようなシェアオフィス、with*15やtapple*16のようなマッチングアプリ、TOYOTAがやっているkinto*17という自動車の定額制サービスというBtoC向けのサービスから、Sansanの名刺管理サービス*18、やfreeeの会計管理系サービス*19、Microsoft 365*20やGoogle Cloudという業務全般のサービス*21、Salesforce*22やAdobe*23などが展開しているCRM系のサービス、ビズリーチ*24やSmartHR*25が展開するHRテック系のサービス、マネーフォワード ME*26等の資産管理系のサービス、ASKUL*27のリース等のBtoB向けのサービスまで数多くのサブスクリプションビジネスが現在では存在しております。ここに挙げたようにBtoCの企業だけでなく、BtoB企業側のサブスクリプションビジネスが流行っていることから、企業側の価値観も「所有」から「利用」に変わっており、その変化ゆえBtoCと比べて導入も難しく高額なBtoBのサービスにおいて、伴奏型のサポートをするカスタマーサクセスが流行り始めました。
 一方で、新聞の例で考えれば分かると思いますが、定額制のサービスになったからカスタマーサクセスが必要というものではなく、定額制のサービスの中でも使い方やどう活用すれば分からないからこそカスタマーサクセスが必要となります。恐らく、BtoBのめちゃくちゃ分かりやすいSaaS(Software as a Service)ツールしか世の中になければ、正直カスタマーサクセスの必要性はかなり低くなると思いますが、一方でそうは言っていられないくらいDX(Digital Transformation)という流行の中で多くの企業が今やっているマニュアルなオペレーションを全てデジタルに置き換えないといけない、ただどうすれば良いかも分からないし、SaaSツールなんて入れてみたものも使い方も分からないといった事態になってしまっているため、カスタマーサクセスは重要な役割を担うことになっています。
 ここまでカスタマーサクセスという職種が流行ってきた理由を書いていきましたが、その中で出てきたSaaSとはそもそも何か、この言葉を分からずしてカスタマーサクセスという職種を知るのは難しいかと思いますので、補足していきます。

SaaSとは?

 改めて、『SaaS』とは、「Software as a Service」の略語であることを記載しますが、直訳すると「サービスとしてのソフトウェア」となります。これだけ見ても、正直分からないと思います。自分も最初よく分からなかったので、少し補足しておきます。
 『SaaS』について、調べてみるとSalesforceのWebサイトには以下のように記載されておりました。(What is SaaS? - Software as a Service | Salesforce India

What is SaaS?
Software as a service (or SaaS) is a way of delivering applications over the Internet—as a service. Instead of installing and maintaining software, you simply access it via the Internet, freeing yourself from complex software and hardware management.

SaaS applications are sometimes called Web-based software, on-demand software, or hosted software. Whatever the name, SaaS applications run on a SaaS provider’s servers. The provider manages access to the application, including security, availability, and performance.

 日本語で意訳すると、「自身の持つハードウェアにソフトウェアをインストール/メンテナンスという複雑な管理をなくし、インターネット上で簡単にアクセスして利用出来るサービスアプリケーション」のような意味合いになります。「少し前までは、ExcelやWord、PowerPointといったソフトウェアは自分のPCにインストールしないと使えませんでしたが、今ではインターネット上でアクセスすれば簡単に使えるという形のサービスの提供手段がある」ということを指しております。典型的なサービスは、Google Cloudで提供されるGmail*28やGoogle Sheets*29、その他にもfreee*30やSansan*31、Salesforce*32といったサービスは聞いたことがあると思いますが、全て自身のPCにソフトウェアをインストールしなくても、インターネットにアクセスすれば利用できるようなサービスとなっております。

SaaSはなぜ流行ったか?

 「今までもSaaSみたいなビジネスは出来そうだが、なぜ最近注目がされるようになったのか?」という疑問も出てくるかと思います。背景には色んなものがありますが、その中でも大きな影響を与えたのはクラウドの登場とDXの推進でしょう。
 少しだけ歴史を遡って考えていきますが、「2000年以前には流行らなかったのか?」と言わると、答えは「NO」です。理由も想像に易いかもしれませんが、その当時、インターネットに繋がる家庭や企業も少なければ、そもそもホームページもない企業も多かったので需要が少なかったというのが現実でした。
 では、次に「2000~2010年の期間はどうか?」と言われれば、これも「NO」です。ただ、片鱗は始まっていたと思います。2000年ごろに日本でもYahoo!BBのようなサービスが一気に拡大することで、多くの家庭がインターネットにアクセスできるようになり、一家に一台コンピュータ時代が始まります。更に2007年ごろにはiPhoneが発売されたことで、今は死語になってしまっているガラケー*33がなくなりスマートフォンが一気に市場を斡旋していくと、一家に一台コンピュータ時代から一人一台コンピュータ時代(スマートフォンもコンピュータです)が始まります。
 それと同時に一気に拡大していった企業がGAFAM*34と言われるようなIT企業です。GAFAMの中でもAmazon、Microsoft、Googleが自社の成長の過程で展開し始めたのがパブリッククラウドサービスであるAWS(Amazon Web Services)*35、Azure*36、GCP(Google Cloud Platform)*37です。最初こそ、クラウドサービスに自社データを預けるなどはセキュリティ的にも出来ない、自社でサーバーを持っていた方がカスタマイズもしやすいという理由でオンプレミス*38でのシステム開発・運用がメインでしたが、ビジネスの変化の加速化や、ビジネスの商流の変化、ユーザーの需要の変化、等などに迅速に応える上でもオンプレミスからクラウドへの移管が進んでいってます。また、以下にも示すようにオンプレミスに対するクラウドも遜色はないかと思います。

表:クラウド vs オンプレミス

比較 クラウド オンプレミス
初期費用 安いため、オンプレミスよりも気軽に開始できる 高いため、導入する際には慎重に検討が必要になる
定常費用 固定の定常費用が掛かることに加えて、使えば使うだけ従量費用が掛かる メンテナンスのための人的コストや電気代などが掛かる
環境の準備期間 環境の準備は契約後すぐに完了する 調達までに物理的な準備やセットアップが必要となり時間が掛かる
カスタマイズ性 パッケージとなっている部分が多く、カスタマイズ性は低い 完全に個社のビジネスに合わせて構築出来るため、カスタマイズ性は高い
セキュリティ AWSやAzure、GCPに準じたセキュリティとなっており、かなり高い水準となっている 自社の要件に合わせてクラウドサービスよりも高くも低くも出来る
OS等のアップデート AWSやAzure、GCPに準じて、自動で更新される 自社でアップデート情報を取得し、自社でバージョンアップの開発が必要

 この表を見てもらえば分かりますが、クラウドとオンプレミスならどっちが良いというものでもありませんが、コストを抑えながら立ち上げをスピード感もってやるにはクラウドの方が圧倒的に良いと個人的には思います。よく企業で気にされるセキュリティに関しても、AWSやAzure、GCPの基準となるためかなり高い水準を維持しているのも事実であるため、自社のシステムと比べても遜色ない/そこまで問題にならないかと思います。ちなみに、余談ですが『人の価値観の変化』で記載した内容にも似ており、オンプレミスは売り切り・買い切りの『所有』のモデルになっている一方で、クラウドは『利用』のモデルになっているということも、新興企業や若手が多い企業でクラウドが利用されやすい背景にはあると思います。加えて、VUCAという時代では企業もリスクを取りたくないため、必要な分だけを利用するようなクラウドの方が好ましくなっていることは事実だと感じてます。更には、クラウドが発展していく中でも、企業としてはクラウドを利用するならリスクを抑える上でもAWSやGCPなどを利用して自社システムを0から構築するのではなく、既にサービスとして構築されているSaaSを利用していく方が良いと考えるケースも増えていると思います。少し話外れますが、多くの企業がDX推進を急務としている中でも、自社システムで構築されているものをDXの名のもとに0から作り直すよりも既存でマーケットに出ているSaaSツールを使う方が正直リスクも抑えられるという判断もあり、SaaSのツールが現代になってからやっと流行っているのだろうと感じます。
 では、「今まで話してきたSaaSとはそもそもどんなビジネスモデルなのか?」という部分への回答をここから書いていきたいと思います。

SaaSのビジネスモデルとは?

 SaaSのビジネスモデルは今までお話ししたようにサブスクリプションのビジネスモデルとなっているため、顧客に月額費用を固定で頂く代わりにサービスを利用しても良いという契約がメインです。また、その月額費用に加えて、追加で使った分に対しては従量費用という形で変動費用を請求する契約となっていることが多いです。
 特に、多くの上場しているSaaS企業の決算資料を見て頂くと分かりますが、SaaS企業では月毎の売上であるMRR(Monthly Recurring Revenueのこと、月次経常収益ともいう)を重要視し、その最大化、ひいては契約企業1社あたりのLTVをかなり重要視します。これも考えてみると単純なお話ですが、月額定額制を敷いている場合には、ある意味「売り切り・買い切りのモデル」よりも長く使ってもらえばもらえるだけ売上が立ちますし、毎月の売上であるMRRが大きければ大きいほどそのLTVは更に大きくなります。
 MRRが月の売上というのは理解出来たかもしれませんが、折角なのでMRRの構成要素も理解しておくと良いと思います。特に、カスタマーサクセスでは、「導入企業のLTVを最大化」がミッションであり、「導入企業のMRRを最大化」することはひとつの重要な要素となります。ちなみに、「LTVを最大化するならMRRを最大化すれば良い」ではないかというツッコミもあるかもしれませんが、あくまでも「LTVを最大化すること」において、「MRRを最大化すること」は必要十分条件でなく、十分条件であることを理解しておいてください。当然、特定の期間だけMRRが大きくなっても、それにより解約率が上がってしまうとLTVは減少するという本末転倒が起こってしまいます。
 そして、このMRRを最大化する上で、MRRをもう少し分解していければと思います。*39

MRRの構造

 このイメージは、N月(N-th Month)のMRR(N-th)からN+1月(N+1-th Month)のMRR(N+1-th)における変化を表しているものとなります。ここで色んな見慣れない単語が出てきておりますので、以下にまとめます。

表:MRRを構成する各単語の説明

# 単語 説明
1 MRR(N-th) N月のMRR
2 MRR(N+1-th) N+1月のMRR
3 New MRR 新規の受注による増加MRR
4 Expansion MRR 既存の顧客からのMRRの増加MRR
5 Contraction MRR 既存の顧客からのMRRの減少MRR
6 Churned MRR 既存の顧客の契約解除による減少MRR

 要は、N+1月のMRRは、次のように表せます。
\displaystyle \mathrm{MRR}_\mathrm{N+1} = \mathrm{MRR}_\mathrm{N} + \mathrm{MRR}_\mathrm{New} + \mathrm{MRR}_\mathrm{Expansion} + \mathrm{MRR}_\mathrm{Contraction} + \mathrm{MRR}_\mathrm{Churned}
 そして、この数式の中で、カスタマーサクセスによる影響が大きいのは、 \mathrm{MRR}_\mathrm{Expansion}\mathrm{MRR}_\mathrm{Contraction}\mathrm{MRR}_\mathrm{Churned}になります。特に個人的には後者の2つの減少分を如何に抑えられるかが、このビジネスにおいては非常に重要となります。少し抽象度の高い話だったので、以下のようなケースを例にご自身でも実際にどうなるか考えてみてください。

MRRのイメージ理解

 ここでは、MRRの単価の低い月額10万円のSaaSツールを想定して、イメージしていきましょう。加えて、このツールは機能はほとんどなく5ユーザーを超えた場合には、1人につき1万円を追加費用とするような契約とし、分かりにくくならないように、これ以外の特別な契約はなしとします。また、このSaaSツールは2023年1月にサービスをリリースし、月に10件の新規契約、毎月の解約率が5%(切り上げで考えます。4.8件なら5件が解約。)として考えていきます。もしこの解約率を3%にすると2025年12月末時点でどのようなMRRの差分になりますでしょうか。

カスタマーサクセスが重要な理由

 ここまでの話をまとめる形になりますが、人々の価値観が「所有」から「利用」に変化する中で流行ってきたサブスクリプションビジネスにおいては、如何に売るかではなく、如何に継続してもらうかが大事になっていきます。そして、この継続のカギを握る職種が「カスタマーサクセス」になります。利用者が自社のサービスを利用して如何に自社の目的やゴールに近づけるかをしっかりと伴奏してサポートすることで、利用者が長くサービスを利用することに繋がります。
 だからこそ、多くの企業がSaaSというサブスクリプションビジネスを展開する中で強いカスタマーサクセス組織を練り上げようと躍起になっているのです。

SaaSツールによるDXは難しい?

 最後にこの問いに関しまして、補足的に共有できればと思います。この問いへの回答は結論、「SaaSだとDXは出来なというわけではないが、現状難しいのも事実」だと思います。これは、SaaSだからというよりは、DX自体に対する人々の期待値と現実の差分ゆえだと思います。
 特に、SaaSツールの場合には、テクニカルな部分の知識がなく導入が出来てしまうという謳い文句とは裏腹に、CDPやMA等の専門的な領域のSaaSツールになればなるほど、テクニカルなバックグラウンドが必要になってしまっているというジレンマがあるからだと感じます。実際に多くの企業様に自身もSaaSツールのカスタマーサクセスとしてツールの導入をしましたが、殊、データを扱うという領域においてはデータをSQLやExcelで扱える人でないと本当に何が起こっているか分からないという事態がしばしば発生してしまいます。ただ一方で、世の中的にはDXをどんどん推進していこうと国を挙げて進めている(産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX) (METI/経済産業省))手前、誰でも使えるためのノーコード・ローコードツールが流行っているのは事実であり、それによってデジタル、データ周りの知識が全くなくても導入が出来るという認知を与えてしまっていることが、ユーザーの期待値との差分を作ってしまっている感じがします。ただ一方で、この状況を正しく理解した方が良いなと個人的には感じます。以下に簡単ですが、キャプチャを添付し、今起こってるDXの推進における課題を記載してみました。凄く無責任なくらい簡単に問題点をまとめると以下になります。

  • DX推進の『あるべき』の定義、及び『現状』を把握した上で、その差分である『問題』を抽出するリーダーの不足
  • 『問題』の解決において、課題の各論でなく全体像を把握した上で課題に優先順位をつけてリソース配分が出来るリーダーの不足
DX推進における課題の一例

 また、この添付したキャプチャを見てもらえれば分かりますが、本来は一課題でしかない誰でも使えるツール(ノーコード・ローコードツール)の導入に注目してしまい、各従業員のスキルアップになかなか繋げられない、スキルアップに繋げるための業務整備が出来ていないという課題に蓋をしてしまっている感じがします。もっと言うと、その大上段にあるべき、DXの推進の『あるべき』を正しく設定できていないこともDXが難しくなってしまっている原因な感じがしております。(とはいえ、SMB領域をメインでやっていたため、Enterpriseと言われる企業においては違うかもしれません。)そのため、SaaSツールでノーコード・ローコードツールを利用するのは、あくまでも企業のDX推進の『あるべき』を求める上でDXを自社のリソースだけで進めることが難しいからであることは忘れてはなりません。

さいごに

 ちょっと最後の方は疲れて雑になりましたが、自分が今までカスタマーサクセスとして働く中で学んだことの一部を共有しました。余力があればまた追記したいと思います。

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*6:https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/meeting_materials/review_meeting_003/assets/review_meeting_003_200731_0001.pdf

*7:Apple Music - Apple(日本)

*8:Spotify Premium - 3ヶ月無料

*9:Amazon.co.jp: プライム・ビデオ: Prime Video

*10:Netflix Japan - Watch TV Shows Online, Watch Movies Online

*11:YouTube Premium

*12:有料会員向けサービス 朝刊・夕刊:日経電子版

*13:NewsPicks | 経済を、もっとおもしろく。

*14:WeWork | オフィスやワークスペースのソリューション

*15:with(ウィズ)価値観で出会う恋活・婚活マッチングアプリ

*16:タップル(tapple) - 恋活・婚活マッチングアプリ【公式】|サイバーエージェントグループ企業運営

*17:【KINTO】新車のサブスク、トヨタから|フルサービスのカーリース

*18:Sansan - 営業DXサービス

*19:クラウド会計ソフト freee

*20:Microsoft 365 の紹介 | Office アプリ、クラウド サービス、セキュリティの統合

*21:https://cloud.google.com/?hl=ja

*22:Salesforce - セールスフォース・ジャパン

*23:アドビ【公式】 | Adobe

*24:ビズリーチとは|選ばれた人だけのハイクラス転職サイト【ビズリーチ】

*25:SmartHR(スマートHR)|シェアNo.1のクラウド人事労務ソフト

*26:マネーフォワード|家計簿アプリやクラウド会計ソフト

*27:【アスクル】オフィス用品/現場用品/医療・介護用品の通販 - 当日または翌日お届け!ASKUL(公式)

*28:Gmail - Google のメール

*29:元々、Google SpreadSheet。Google Sheets: オンライン スプレッドシート エディタ | Google Workspace

*30:サービス | freee株式会社

*31:Sansan - 営業DXサービス

*32:AIを駆使したセールスソリューション&ソフトウェア—営業向けSalesforce

*33:ガラホとは?ガラケーとの違いは?|AQUOS:シャープ

*34:GAFAM Stocks: What They are, How They Work

*35:アマゾン ウェブ サービス(AWS クラウド)- ホーム

*36:クラウド コンピューティング サービス | Microsoft Azure

*37:https://cloud.google.com/?hl=ja

*38:サーバーなどを自社で準備し、自社で開発・管理・運用する方法

*39:参考:MRR: What is Monthly Recurring Revenue?