顧客へのアプローチを検討 ~分析とオペレーション~

 すごく個人的な意見も混ぜ込みながらになりますが、多くの企業のマーケターはオンライン、オフラインを含めて、顧客の育成に力をかけておりますが、実際にどこから取り組めば良いのか分からない、多くの分析手法があるが実際に数値を見ても何をすればよいのか分からない、といった状態になっている感じが少しします。では、実際にどのような企業が実績を出しているのかと言えば、以下の記事でもご紹介してきましたが、自社が注力するべきKPIを意識した上で様々な改善を試みてPDCAを短いスパンで何度も回せている企業だというのは事実かと思います。本当に突飛なことをして、改善を図れている企業もあるかもしれませんが、それは再現性はないアートのようなもので、あまりマネするべきではないのも事実なので、注意してください。かなり多くのマーケターが陥りがちなのも事実ですが…
 では、今回少し具体的な設定を考えて、顧客へのアプローチを検討していきましょう!

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目次

今回の設定

 わかりやすいこともあるので、EC系の企業だとして、今回は施策を検討する際の考え方の1つをご紹介できればと思います。少しイメージを強くしてもらいたいので、単価が7,000円程度のアパレル商品を販売していて、店舗もECも運営している企業で、顧客データをちゃんと取得し始めたのは2021年からの企業だと思っておいてください。そして、あなたはこの企業で売上を上げるために働いているマーケターだとして、オンライン、オフラインの顧客へのアプローチを検討しているとします。
 では、実際に顧客へのアプローチを考えていきましょう!正解もないので、一つの例として参考にしてみてください。

検討までの流れ

 では、いざ既存顧客からの売上を上げてくれと上司から指示されたら、何を考えるでしょうか?
 凄く抽象的な課題かもしれませんが、この際に最初に考えるべきは現状がどうなっているかです。そのため、今の売上がxx円で、これを上げるのだという部分を把握することが重要です。そして、現状を把握することと同時に、売上に繋がる要素をそれぞれ分解することも必要です。ここで分解した要素は必ず互いに独立している要素にしてください。*1
 まず、ここまでで各分解した要素とそれぞれの現状が分かり、そこで初めてどの部分を注力するか、決めていきます。この際にも、特定の部分だけに注力するというよりは複数要素でそれぞれアプローチを考える方が個人的には良いと思います。あくまでも優先順位の問題で合って、アプローチ対象ではないということはないためです。加えて、優先順位を考える際には売上へのインパクトの大きさと実行までの難易度の2つの観点で考えてみてください。
 そうすると、アプローチ方法まで検討が出来たため、あとは注力ポイントへの施策の実行と検証をしっかりと設計することが大事です。ここで良くあるのが検証方法をあまり深く考えずに、施策を一旦始めてしまうケースです。ただ、そうなっては結局施策が本当に良かったのかどうかが分からないため、この部分はちゃんと設計するようにしてください。とはいっても、現状をちゃんと把握して施策を実行しているのであれば、現状把握に利用したレポートや指標と同じ物を利用することが重要かと思います。
 少しまとめると、検討までの流れとしては、「目標指標決定」⇒「現状把握」&「要素分解」⇒「注力ポイント検討」⇒「施策の実行と検証」となりますので、どこから手を付ければいいのか分からない方はこの流れを知っておくだけでも参考になるかと思います。
 では、実際にマーケターのあなたが、この流れで売上を上げるための施策の検討を実施していきましょう!今回はタイトルの通りですが、「注力ポイント検討」まで実施していきます!

「現状把握」&「要素分解」

 まず、あなたは現状を把握する上で、今回そもそも自社の顧客のロイヤリティの高低をRFM分析を利用していこうと考えました。正直、この分析は有名な手法である一方、あまり詳しくありませんでした。「ただ、今回の施策の検討までの一連の流れの中で理解しよう!」と決めて、あなたは突き進むことにします。笑
 そして、まずはRFM分析に必要なのは、受注のデータと既存顧客のデータだということが分かったので、一旦システム部に受注データと既存顧客のデータをくれと依頼しました。2,3日してシステム部からは、対象のデータを共有してもらうことが出来ましたが、さてここからどうしようかと考えております。「やっぱり、そもそもRFM分析って、どうやってデータを作ればいいのかわからないな…」ということでWebでRFM分析を調べてみました。
 そうすると、よくある話ではありますが、RがRecencyの頭文字で最終購入からの経過日数により区分することで直近のアクティブ度合いがわかるもの、FがFrequencyの頭文字で累計購入回数により購入頻度がわかるもの、MがMonetaryの頭文字で累計購入金額によりどの程度お金を落としてくれたかがわかるものとなっております。そして、この分析において作るデータは、かなりシンプルで「顧客ID」単位で、「最終購入からの日数」、「累計購入回数」、「累計購入金額」を少なくとも持たせる必要が有ります。加えて、これらのデータを分析する上ではよく顧客の属性別でも見るために、「性別」、「年代」、「都道府県」などの情報を持たせていることも非常に多いです。
 ということで、あなたは今まで勉強したSQLを駆使して、以下のようなデータをひとまず作りました。

RFM分析用データの作成(途中)

顧客ID 性別 年代 都道府県 最終購入からの日数 累計購入回数 累計購入金額
c001 男性 20代 東京都 30 1 7,000
c002 男性 40代 神奈川県 415 7 56,000
c003 女性 20代 千葉県 85 3 18,000
c004 男性 30代 東京都 205 7 42,000
c005 女性 20代 東京都 100 2 15,000
c006 女性 30代 埼玉県 165 1 8,000
c007 女性 30代 神奈川県 280 13 78,000
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

 多くのマーケターと同じく、あなたは「よし!まずはここまでできた!」となりますが、RFM分析でよく悩むのはこのデータを元に、R、F、Mのそれぞれのランクをどのように分けるかということです。代理店やベンダーは過去の経験上、こんなものだろうと数値を伝えてきますが、実際にはそれらの数値を一度当てはめた上でチューニングしていく必要はあるかと思います。本当に目安で行くと全体の中で下から30%、25%、20%、15%、10%くらい分布となるように一旦分けてみるのは良い気がします。ただ、ここも全然好みで良いと思いますが、本当に迷っているなら目安として、参考にしてください。また、それ以外にはRランクに関しては季節性があるものなら0日~30日、31日~60日、61日~90日、91日~180日、181日~360日、361日~みたいな感じでも良いと思います。さらに言うと、ここは5段階や6段階で例をご紹介しましたが、会員ランク制度を持っているのであれば、それをFランクやMランクに適用する方が良いでしょう。特段、それが3段階だろうがあんまり気にしなくても良いと思いますし、少ない方がレポートを各指標を見る上で分かりやすいのも事実です。
 あなたは、最終的にR、F、Mランクを以下のような形で定義しました。

R、F、Mランクの定義

Recency Frequency Monetary
ランク1(最上級) 0日~30日 6回~ 100,001円~
ランク2 31日~60日 4回~5回 60,001円~100,000円
ランク3 61日~90日 3回 30,001円~60,000円
ランク4 91日~180日 2回 7,501円~30,000円
ランク5 181日~360日 1回 1円~7,500円
ランク6 361日~ 0回 0円

 ここまで整ったらさっきのデータにランクを入れていきましょう!

RFM分析用データの作成

顧客ID 性別 年代 都道府県 最終購入からの日数 Rランク 累計購入回数 Fランク 累計購入金額 Mランク
c001 男性 20代 東京都 30 ランク1 1 ランク5 7,000 ランク5
c002 男性 40代 神奈川県 415 ランク6 7 ランク1 56,000 ランク3
c003 女性 20代 千葉県 85 ランク3 3 ランク3 18,000 ランク4
c004 男性 30代 東京都 205 ランク5 7 ランク1 42,000 ランク3
c005 女性 20代 東京都 100 ランク4 2 ランク4 15,000 ランク4
c006 女性 30代 埼玉県 165 ランク4 1 ランク5 8,000 ランク4
c007 女性 30代 神奈川県 280 ランク5 13 ランク1 78,000 ランク2
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・

 ここまでは出来たため、次はピボット集計をしていきましょう。ただ、ここでは2軸で見ないとよくわからないことになることに注意してください。何か凄そうなことをやりたがる方ほど、多くの軸を一つのレポートで実現した方が良いと思い、複雑な集計をしがちですが、全然そんなことはなく、軸は少ない方が理解がしやすく有効なものとなりますので、シンプルに考えるようにしてください。そして、RFM分析では、FとMに線形の相関(比例関係)が成り立つような場合はFとMを2軸にしてしまうとあんまり示唆が得られないレポートとなるため、RとF、若しくはRとMを軸にレポートを見るケースが多いです。自社で持っている製品の価格帯がかなり広がっている場合はRとF、広がっていなければRとFでもRとMでも良い気がします。
 では、あなたはここまでのデータを利用して、RとFを軸にしたレポートを集計しました。

RFM分析用レポート

Recency ランク1 ランク2 ランク3 ランク4 ランク5 ランク6
Frequency - - - - - -
ランク1 20 50 80 170 260 360
ランク2 60 110 160 260 410 620
ランク3 140 270 390 470 620 740
ランク4 260 490 650 820 990 1,210
ランク5 500 800 1,150 1,400 2,100 3,200

 そして、ここまで漸く出来ましたが、あなたはこれを見ても正直細かすぎる感覚を覚えたのではないでしょうか。恐らく、意外と細かくないと思ってアウトプットまで作ってみたものの、いざ見てみるとこれでも細かいレポートになってしまって、正直見てもへぇ~としかならないケースが多いです。
 そこでこのレポートを次のようにグループ化して、見直してみてみましょう!そうすると、これだけかもしれないですがかなり理解が容易になってきます。

RFM分析レポートのグループ化

 それぞれのグループに関して、グループ①は購入頻度も高く、直近アクティブな優良層、グループ②は頻度は低いものの、直近アクティブな優良見込層、グループ③は頻度は高いが直近アクティブでない優良休眠層、グループ④は頻度も低くく、休眠気味な一般休眠層のような感じでラベルをつけていくこともやりやすくなりました。さらに、この4つのグループのようにすることで、どのグループに注力しているのかを検討しやすくなっていくことも事実ですので、次に注力ポイントを検討しましょう。

「注力ポイント検討」

 ではでは、4つのグループまで分けましたが、それぞれの人数を見ていくと、グループ①が910人、グループ②が7,340人、グループ③が1,650人、グループ④が11,510人となります。実際に単価が高いのは優良顧客になるため、グループ①や③の方々の方が高いことも事実ではあります。そのため、そういったところと母数を加味して、自社の戦略的にリソースをどこに投下するかを考える必要があります。その中で凡そ多くのマーケターがアプローチするのはグループ②や④といった母数が多いところになり、グループ②の中でもRランクが1~4の顧客には以下に前回購入後のアプローチが出来るのか、グループ④であれば以下に休眠引き上げをしてアクティブ化出来るかが問われる形になります。且つ、引き上げ率を加味した上で一旦あなたは、グループ②、グループ④の順で注力していくことを決め、その上でグループ①、グループ③の順で注力していこうと考えていきました。
 そこから先の施策などは以前ご紹介したような形で、考えて頂けると良いと思いますが、今回はどのように分析を利用しながら注力ポイントを決めるかに焦点を当てたいためこの辺にしておきます。

さいごに

 ちょっと最後は、「注力ポイント検討」も少しざっくりになりましたが、余力があれば補足しておきます。笑
 ただ、重要なことは色んな施策や分析を考える上でもどのようにして、一般的な分析手法から注力ポイントなどを考えていくかという部分かと思いますので、その部分でご参考にして頂ければと思います。

*1:MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)になるようにといった言われ方もあります